+R2最終話後
+オールキャラ
+ほのぼの


約束






ドーン――――――




「たーまやーー!!!」

「ヒュー、すっげぇ」


寒空の下、漆黒の宵闇の中に美しい花が咲いた。たった一発といえども、それは美しく、見る者の心を魅了した。


「綺麗・・・・・・でも、よかったんですか?会長。まだ全員揃っていないんじゃ・・・」

「景気づけよ、け・い・き・づ・け!!それに、何事も準備が大切って言うじゃない?だから、練習よ」


腰に手を当て、右手を翳しながら闇に浮かぶ花火の白い名残を見つめ、この学園に通っていたと時と変わらぬ明るい声で彼女は言った。


「練習って・・・・・それにしても、カレン遅くないですか?・・・寝坊でもしたのかな」

「誰がこんな時間に寝坊ですって?」



「え――


 うっわぁ!!!!出たぁ!!!!!」



リヴァルが驚いて声がした方を振り向けば、そこには満面の笑みを浮かべたカレンが立っていた。


「出たって何よ、失礼ね。アンタが気づかなかっただけでしょう?」

「・・・・・・ま、まぁそうだけど。それにしても、なんか調子狂うな。雰囲気から何からまるで別人だ」


元気に跳ねた赤い髪、意志の強そうな瞳、活発そうな口調、そして、彼女を包み込む雰囲気――何から何まで、リヴァルの記憶の中のカレンとは違っていた。


「うるっさいわね!!もうバレてるんだから隠す必要なんてないし、それにアンタには関係ないでしょ?」

「う・・・・・・確かに」

「本っ当に元気ね。あんなに大人しかったのが信じられないわ。でも、あたしはこっちの方が好きよ。なんだか生き生きしてるし」

「私も、最初は吃驚したけど、でも元気があって良いと思う」

「二人とも、ありがとう。・・・・・・どっかの誰かさんとは大違いね」


笑顔で二人に感謝の気持ちを述べた後、あえて『どっかの誰かさん』の方は見ずにつぶやく。


「ちょ・・・・・・なんか、俺一人だけ悪者?」

「ふっ、冗談よ。リヴァルってなんだかからかい甲斐があって面白いからつい、ね」

「つ、ついってなんだよ!!もう」

「・・・・・・っ」

「あ、ニーナ今笑っただろ?!それに会長もにやにやしてるし!!」

「え、そんなこと・・・・・・っふふ」

「にやにやなんて失礼ね、ほくそ笑んでると言いなさい」

「そっちの方がタチ悪いって。もう・・・・・・」


怒る気力も失せたのか、諦めたのか定かではないが、リヴァルが抗議を止めたことにより更なる笑いの渦が巻き起こる。静寂に包まれた夜のアッシュフォード学園の旧校舎の屋上で、ここだけが切り取られたようにまるで空気が違う。
日本で言う師走になったというのに、ここだけは、なんだか暖かかった。


「・・・・・・ふぅ、笑い疲れちゃったじゃない。リヴァルの癖にこの私を疲れさせるなんて」

「かいちょー・・・まだ言うんですか?」

「あー、ごめんごめん。リヴァルってつい弄りたくなるのよねー」

「またついって・・・俺って・・・・・・」


「あぁっ!!!!!」


リヴァルが自分のキャラクターについて本気で悩みそうになったその時、突然カレンが何かを思い出したように声を上げた。


「ど、どうしたのカレンちゃん?!」

「ちょっと・・・もう、なんなんだよ。吃驚したじゃんか」

「・・・その顔はなんだか、何かを思い出したような・・・・・・・・・あ、」

「会長?」


ニーナとリヴァルがカレンの大声に驚いている一方で、ミレイも少しばかり焦りを含んだ声を上げた。
そしてカレンとミレイは目を合わせ、


「「ナナリー!!!」」


「へ?」

「え・・・?」


またもや突然、大きな声を出した。それも今は神聖ブリタニア帝国の皇帝となった少女の名を。



「・・・・・・気づいてくださって、良かったです。もう忘れ去られているのかと・・・」



「え、ナ、ナナリー・・・・・・陛下?」

「なんでここに・・・・・・?」


かつては共に学園で過ごしていたが、今となっては雲の上の存在となった人物の突然の登場に驚きを隠せないリヴァルとニーナ。


「ご、ごめんね!ナナリー!!忘れていたわけじゃ・・・」

「つい盛り上がっちゃって。てへ☆」

「会長、『てへ☆』はないです」

「えー、別に良いじゃない可愛げがあって・・・ってまた脱線しちゃったわね。ノリって恐ろしいわ」


一方、そんなナナリーの存在をすっかり忘れ盛り上がっていたことを謝りはしているものの、またもや『ノリ』にのってしまうミレイとそれに流されてしまうカレン。


「ふふ、別に構いません。お話を聞いていてとても楽しかったので。・・・その、リヴァルさんには失礼ですが」


そして、手の届かないところに言ってしまったはずの、ナナリー。


「ちょ、ナナリー・・・じゃなかった。陛下?まで、そんなこと・・・・・ってか、どういうことですか、会長?」

「ああ、私が呼んだのよ。カレンに頼んでね」

「ええ。驚かせようと思ってリヴァルとニーナには内緒にしていたけどね」

「本当に驚いた・・・まさかナナリーちゃん・・・・・・じゃなかった、えっと、」

「そのままで結構ですよ、リヴァルさんも。『陛下』なんて、他人行儀でなんだか寂しいじゃないですか」


皇族であり、神聖ブリタニア帝国の皇帝でもあるナナリーに対し、どう接するべきか迷うニーナにナナリーは微笑みながらそう告げた。


「じゃあ、遠慮なく。でも、なんだかなぁ。まさかあのナナリーが今では皇帝だなんて。世の中わっかんないもんだよな」

「ふふ・・・それに、まさかあのリヴァルさんが、今では学校の先生を目指しているだなんて、世の中分からないものですね」

「あっははは、上手いこと言うわね、ナナリー」

「ありがとうございます」

「ちょっと、結局俺っていじられキャラなわけ・・・・・・?」


あのおとなしかったナナリーは、どうやら雲の上で強かさを身に着けてきたらしい。そんなナナリーとリヴァルの掛け合いに、またも笑いが生まれた。


「あっはは・・・・・・あ、そうだ、リヴァルのせいでまた忘れてたけど、これで全員揃ったわね」

「また、俺のせい・・・・・・」

「そうですね。あたしと、会長とニーナとリヴァルとナナリーと」

「全員って・・・そういやぁ、今日は何で集まったんですか?俺、花火を上げるわよー・・・としか聞いてないんですが」

「私も、ミレイちゃんにここに来るようにとしか・・・」



「願い・・・・・ううん、約束を、果たしに来たのよ」



いつもとは違う、しかし穏やかな表情で、彼女は言った。


「約束って・・・・・・あ、」

「・・・・・・屋上で、皆で――花火」


ニーナとリヴァルの頭に思い浮かぶのは、今日と同じくこの学園のこの場所で、生徒会の皆でみた、夜空に咲く大輪の花。

そして、空を見上げ言った、今は亡き仲間の一言。


「そう、約束。だから私が皆を集めたのよ。因みにナナリーは、まぁ、サプライズゲストってとこ?」

「呼んでいただけて・・・また皆さんと会えてとても嬉しいです」


そう、嬉しそうにナナリーは言った。


「・・・私には、これくらいしかしてあげられることはないから」

「会長・・・・・・」


切ないような、それでいて慈愛に満ちた表情で、ミレイは言った。まるで、ここにはいない彼に告げるように。


「それにしても、なんだか思い返してみると嘘みたいな出来事ばかりだったわよね。今でも信じられないもの」


先ほどの空気とはうって変わって、いつもの彼女の顔つきに戻る。そうして思い浮かべるのは、世界が変わった、あの出来事。


「確かに、そうですよね。俺も、あいつにはいろいろ驚かされてばかりだったし」


いままでのことを一つ一つ思い出すように、リヴァルが言う。


「辛いことも悲しいこともいろいろあったけど、でも、そのおかげで私、すごく成長できたと思う」


敬愛していた人の死、自らが犯した過ち。さまざまなことを思い浮かべ、ニーナが言う。


「なんだかあっという間だったけど、でも、全部、忘れることなんて出来ない」


兄の残した想いだけで動いていた自分と、自分の意思をしっかりもって動く今の自分。その変化をもたらした人物へ向けるように、カレンが言う。


「失くしたものはとても大きいものでしたが、それでも、今、はっきりと幸せだと言えます」


意志の強そうな瞳で、ナナリーが、言う。


「・・・・・・っと、なんだかしんみりしちゃったわね。よし、じゃあテンション上げるために、花火をどーんといっちゃうわよ!」


少し重くなった空気が、彼女によって取り払われ、一気に明るいものへと変わる。


「そうしますか!よっし、ここからが俺の見せ所!!」

「リヴァル、失敗なんてしたらどうなるか分かってる?」

「ちょ、カレン、脅すなよ。・・・お前が言うとなんかホント怖い」

「何か言った?」

「いえ、なにも」

「はいはい、漫才はここで終わりにして。リヴァル、お願い」

「漫才って・・・・・・じゃなくて、了解です」


漫才という言葉に一度は反応したが、それではきりがないと判断したリヴァルが、右手で空を切るように敬礼をした。そのまま、準備に取り掛かる。























「―――じゃ、いっきますよー」


打ち上げの準備が終了したリヴァルが、皆に声をかける。


「OK、頼んだわよ」

「リヴァルさん、頑張ってくださいね」

「それでは、3・2・1――――」















ドーン――――――













夜空に大輪の花が咲く。

先ほどとは違う、約束の、花火が。



「これで、やっと約束が果たせたわね。・・・・・・見てるかしら、みんなも」

「シャーリーに、スザクに・・・・・・ルルーシュ。見てると良いな」

「お兄様に伝えたい想いも一緒に、届くでしょうか」

「きっと届くと思う。だって想いは、世界を変えることだって出来るんだもの」

「・・・・・・うん。きっと、届く」



それぞれの想いを胸に抱え、5人は暫く、再び漆黒に染まった空を見上げていた。








Next?