「よっし、じゃあ久しぶりに集まった記念に写真でも撮らない?」
沈黙を破ったのはやはり彼女だった。
「いいですね。撮りましょうよ、写真」
「私も、なかなか皆さんと会う機会もないので、是非撮りたいです」
「そういうわけでリヴァル、デジカメ持ってる?」
言葉は問いかけの形をとっているが、すでに当然のように手を差し出している。
「はいはい、もちろん持ってますよ。・・・っと、確か鞄の中に」
彼女のもう慣れてしまった態度に少し肩を竦めたリヴァルは、自分の鞄を探る。
と、そのとき―――
「ちょ、ああああああああああ!!!!」
バサバサッ
「きゃ、」
「あーらら・・・・・・」
「あちゃー・・・」
突然、一陣の風が吹き抜けた。
そしてその拍子に、リヴァルが探っていた鞄の中から数枚の紙が風に攫われていった。
「やっべ!あれ明日提出のレポートなのに・・・」
「うっそ、それは確かにやばいわね」
「大変・・・・・・」
「ちょっと今から探して来る!!」
「え、ちょ、リヴァル!!」
言うや否や、駆け出していってしまったリヴァル。しかし、今はすっかり日も沈んでしまった夜。防犯用のライトが点いており多少は明るいものの、一人で探すのは困難だろう。
「・・・しょーがない、ここは皆で協力してやりますか」
「そうですね。・・・散々からかっちゃったし、このくらいはしてあげないと」
「じゃあ私は、ここから探してみます。上からの方が見えるかもしれないし」
「そうね、じゃあお願い、ナナリー。行くわよ、カレン、ニーナ」
「え、私も・・・・・・?」
「あったりまえでしょ?旧生徒会の仲間なんだから。さあ、れっつらごー!!!」
右手を高々と突き上げ、左手はしっかりとニーナの腕を掴み、ミレイは走り出した。
「あ、ちょ、ミレイちゃん」
「気合い入れて探さないとね。ナナリー、じゃあ上からはよろしくね。何かあったらすぐに連絡して」
「はい。カレンさんも気をつけて」
後から続いてカレンも階段をかけ下りていく。
ナナリーはそれを見送った後、車椅子を動かして下の様子が見えるところまで移動し、少し乗り出す。
が、そのとき―――
「きゃ、」
少しバランスを崩したナナリーが、車椅子から落ちそうになった。
「ナナリー!」
すると背後から彼女の名前を呼ぶ声がしたと思えば、すぐさま何者かがナナリーの体を支えた。
「スザク、さん」
「危ないじゃないかっ、気をつけないと、」
「どうしてここに・・・?」
「あ、その、」
彼女の問いかけに、一転して焦りだす――スザク。
「ふふ、ごめんなさい。実は最初から気づいてました」
「へ?」
「人の気配には敏感だって、スザクさんだって知っていたでしょう?」
「あ・・・・・・」
「あと、落ちそうになったのもわざとです。そうしたら出てくるかな、って」
いたずらっ子のような目をして、彼女は言った。
「・・・・・・完全にしてやられたって言うわけ、か。はぁ、敵わないな、ナナリーには」
頭を掻きながら、スザクが眉を下げて言う。
「でも、本当に吃驚したじゃないか。それに、あまり無茶なことはしないでよ?」
「ごめんなさい。・・・・・・だけど、スザクさんもスザクさんじゃないですか。来たいならそう素直に言えば良いのに」
「っ・・・・・・そ、それは」
「また、『僕は表に出てはいけない存在だから』とか言うんですか?もう聞き飽きました」
「う・・・・・・・・・」
最近ますます兄に似て口が達者になってきたナナリーに、怯むスザク。
「・・・お兄様の言葉を守っているのは分かります、でも、」
「ナナリー、良いんだ。僕も分かってるから」
「スザクさん・・・・・・」
ナナリーの言葉を制し、スザクが言った。しかし、表情に暗さは見えない。
「・・・花火、ナナリーがやろうって言ったんだろ?」
「はい、バレちゃいましたか」
「こういうのはいかにも会長が好きそうだけど、なんとなく、ナナリーかなって」
「以前、ミレイさんから聞いたんです。お兄様が言ってたって。だから、どうしても」
誰よりも兄を思っていたナナリーのことだ、今、自分が彼のために出来ることなら、どんなに難しいことだったとしてもやったに違いない。
「ルルーシュは、幸せだよ。こんなに兄想いの妹がいるんだから」
「はい・・・・・・もし、幸せじゃなかったら、私、お兄様のこと許せないもの」
世界の救世主、ゼロとしてではなく、枢木スザクとして。
神聖ブリタニア帝国の皇帝ではなく、一人の兄を想う妹として。
二人は、今は亡き彼のことを思い浮かべ、優しく微笑みあった。
そして、
「誕生日おめでとう、ルルーシュ」
「お誕生日おめでとうございます、お兄様」
夜空を見上げ、愛する彼が生まれたこの日を、心から祝いあった。
『またここで花火を上げよう』
Happy Birthday Leloich!!