「必ず迎えにいく、必ず!だから、それまで、それまでっ、愛してる、ナナリー!」
俺の大切な、かけがえのない、愛しい妹。
それが、ブリタニアに。
しかも、エリア11の新総督になるという。
俺は、どうすれば、
どうすれば・・・。
銃声 は 鳴り響いた 2
「ふぁー、楽しかったー。でもさすがに疲れたな」
大きく伸びをして、金髪碧眼の青年は言った。
彼の名はジノ・ヴァインベルグ。
ブリタニア皇帝直属の騎士、ナイトオブラウンズのナンバースリーだ。
そんな彼がここ、アッシュフォード学園にいる理由。
それは、同僚の枢木スザクの通う学園の視察のため、というのは名目で、実際には庶民の学園を見てみたかったから、というのが本音だ。
ここへはもう一人、ナイトオブシックスのアーニャ・アールストレイムと共に来たのだが、途中で別れてしまい、今現在はジノひとり、ということになる。
「それにしても、ここはどこだ?」
ダンスパーティの会場から抜け出し、一人ぶらぶら歩いていたら、校舎とは別の方向に来てしまったようだ。
「まいったなー。誰かに聞いてみるしかないか」
とりあえず、誰かいないかと周りを見回してみる。
とはいえほとんどの人間がダンス会場にいる今、人がいる可能性は極めて乏しい。
「んー、いない、か。・・・あれ?」
闇に包まれていて見逃しそうになったが、確かに人がいる。
おそらく男子生徒であろう、周囲に溶け込む黒い制服。
そして、漆黒の髪。
どき、と、胸がひとつ鳴り響いた気がした。
理由はわからないが、とりあえず、声をかけなくては。
「あの、ちょっと」
黒い影が一瞬肩を震わせ、立ち止まり、振り返る。
―――心臓が、止まるかと思った。
「・・・なんで、しょうか」
闇のせいでしっかりと顔立ちが見えるわけではない。
だが、見間違うはずがない。彼を。
焦がれ続けた、彼を。
「っルルーシュ!!」
「え?えっと・・・っ!」
ルルーシュ、と呼ばれた彼は、見覚えのない人間に名を呼ばれたからなのか、困惑の表情を浮かべた。
そしてジノは気づかなかったが、一瞬瞳に驚愕の色が過ぎった。
「ルルーシュ、なんだろう?」
「あの、人違いでは・・・」
「私がルルーシュを見間違えるはずなんてない!人違いなわけがない!」
「ですが・・・」
それでも否定しようとする彼の言葉を遮り、ジノは言った。
「あれから8年、忘れたことなんてなかった。その漆黒の髪を、紫の瞳を。・・・ずっと思い続けていたんだ。人質として送られ、亡くなったと聞かされても、ずっと。だから、ナイトオブラウンズにまで登りつめたんだ。生きていると信じて、いつか迎えにいけるように。アーニャだって―――。ルルーシュが生きていることが公にできないのは知っている。だから誰にも言うつもりはない」
ひどく真剣な眼差しで、ジノは言った。
「ルルーシュ、なんだろう?」
同じ言葉を、繰り返して。
「・・・ああ」
俯き、小さく、ポツリと呟いた。
けれど確かに肯定の意を表した。
「ルルーシュ!!!」
華奢な彼の体を、精一杯抱きしめる。
愛しい愛しい、黒の皇子を。
「やっと逢えた。やっとだ、ルルーシュ。ルルーシュ!」
嬉しそうに何度も名を呼び、腕の中のルルーシュを見つめる。
「・・・ジノ」
「何だ?ルルーシュ」
「ありがとう、覚えていてくれて。だけど、」
今にも泣き出しそうな笑顔で、ルルーシュは言った。
「?」
「だけど俺はもう、あの頃の俺じゃ・・・ない」
顔を歪めて辛そうに声を振り絞るルルーシュを、ジノは無言で見つめる。
「俺の手は、もう汚れてしまった。・・・ジノのそばに居ることなんて許されないくらいに。もう一度会えただけで、俺は十分だ。だから、ジノこれで、」
別れの言葉をつむごうとするルルーシュの唇を、自らの唇で塞ぐ。
深く、深い口付けを交わす。
「・・・ん、・・・」
そしてようやくルルーシュを開放する。
「ジ、ノ・・・」
驚き、目を丸くしたルルーシュの唇は、濡れ、紅くなっていた。
「知っているさ・・・全部」
「え・・・」
一度、閉じた眼を、ゆっくりと開く。
「ゼロ、なんだろ?」
はっと息を呑み、先ほどより目を丸くしたルルーシュに、今度は動揺の色が浮かぶ。
それをあえて無視し、ジノは続けた。
「ずっと、思っていたんだ。もしかしたら、ゼロはルルーシュなんじゃないかって。あんな戦略ができるほどの頭脳を持ち、なおかつブリタニアを、皇帝を憎んでいて・・・。それから、スザクを助けたこともあっただろう?それで、そういえばルルーシュは人質としてエリア11に送られたとき、枢木の家にいたと聞いたことを思い出して。なら二人が知り合いでもおかしくないと思った」
ルルーシュは黙って聞いていた。
「スザクがラウンズに入ってから、聞いてみたんだ。ルルーシュって、知ってるかって。そしたら、昔友達だったって。返ってきた答えは、それだけだったけど。・・・そのとき一緒に聞いてみたんだ。スザクがゼロの顔を見ていたこと思い出して。ゼロって、ルルーシュなんだろって。そしたら・・・」
「・・・・・・」
不意に見つめたルルーシュの瞳に、緊張の色が走った。
「スザクは、何も言わなかった。何故と問い詰めることも、否定もしなかった。ただただ全身で、これ以上踏み込むことを拒絶した。それで、確信した」
ルルーシュの瞳をまっすぐに捕らえ、ジノが言う。
「ルルーシュが、ゼロだって」
「・・・・・・それだけ、か?」
ルルーシュは、逃げ道を探すように言った。
逃げることは無理だとわかっているように、声に諦めの色を含ませて。
ジノは俯き、答えた。
「理由なら、まだある。・・・機密情報局。そこの人間に、問いただした」
その答えを聞いた瞬間、ルルーシュの顔が自嘲で歪んだ。
「捕まえる、気か?」
「え?」
予想していなかったと言葉に、一瞬戸惑う。
「処刑されたはずのゼロがよみがえった今、捕らえてブリタニアに差し出せば、大きな手柄になる。そうするつもりなんだろ?」
「そんなわけ、」
「うそだっ!目の前にゼロがいて、捕まえない軍人がどこにいる?ましてやナイトオブラウンズだぞ」
「そんなことをするつもりはない」
強く否定すると、ルルーシュは瞳に哀しみの色を浮かべ、こう言った。
「スザクだって、そうした」
「・・・っ!」
「スザクだって、俺がゼロだと知って、皇帝に売り払った!・・・確かに俺はスザクに酷いことをした。でも・・・なら、殺せばよかったんだ。こんな、こんなの・・・」
拳を強く握り締め、辛そうな表情で言う。
「ルルーシュ、」
「お前だって、裏切るんだろ、俺をっ!」
いたたまれなくなり、先ほどより強く、強く抱きしめた。
「よく聞いてくれルルーシュ!お前を皇帝に売ったりなんかしない。さっきだって言っただろ?ルルーシュのためにラウンズに入ったんだ。ルルーシュを守るための力を手に入れるために。それに、私はルルーシュを裏切ったりなんかしない!絶対にだ。今日まで何のために生きてきたと思ってる!お前の、ルルーシュのためだ!!」
「ならどうして・・・」
どうしてゼロの事を調べたのかと、自分を探すなら、「ルルーシュ」だけを見ていればいいではないか。気になったとしても、目的はルルーシュなのだから、ゼロは関係ないではないか。
ルルーシュの瞳からは、そう伝わってきた。
だからジノは、真摯な瞳で、できるだけ優しく言った。
「ルルーシュのすべてを知りたかった。背負ってるものもすべて。そうして、私も一緒に全部背負って、ルルーシュの力になりたかった」
「ジノ・・・」
「それじゃ理由に、ならないか?」
愛しい紫の瞳を、覗きこむ。
「・・・反逆者に加担するのか」
「ああ」
「そんなことしたらどうなるかわかって、」
「わかってるつもりだ」
「ジノ・・・」
腕の中のルルーシュの瞳が、縋るようにジノを見つめた。
信じていいのかと。
信じることが、許されるのかと。
「私は、裏切らない。信じてくれ、ルルーシュ。だから、」
「共に歩もう、ルルーシュ」
「ジ、ノ」
そうして二度目の口付けを交わした。ルルーシュの瞳から涙が零れ落ちることのないように、やさしく、優しく。
やさしく。
それが茨の道になろうとも
貴方と共に歩めるならば
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