+If possible,if〜の続き
+スザルル(ユフィルル?)
+死後の世界



想いを 風に





「何を見ているのですか」

「ん?ああ、ユフィか。…その、スザクを見ていたんだ」



色とりどりの美しい花々が咲き誇り、 爽やかな朝を連想させるような小鳥の囀りがあちこちで響いている。
空はところどころに綿菓子のような雲を浮かべ、青く澄み渡り、 見る者の心まですっきりと晴れさせてくれる。


ここは世間一般で言う、『天国』というものなのだろう。

俺がここに来てから分かったこと、それは、『天国』というものがそこに居る人々、 つまり死んだものたちが作り出した空想の世界だということだ。それもそうだろう、 人により思い描く楽園なんて十人十色、もしかしたら自分にとっての天国が、他の誰かにとっては地獄かもしれない。

もっとも、ここが本当に天国だなんていう確証はどこにもない。なにせ、この俺がいるくらいなのだから。


辺りを見渡せば、懐かしき幼少の頃の幸せな日々がよみがえって来るようだ。そう、あのアリエスの離宮にそっくりなのだ。
だからきっと、これが俺の思い描いた『天国』ということなのだろう。



「もしかして、ルルーシュのお墓に?」

「ああ」



ユーフェミア・リ・ブリタニア。俺がこの手で殺した、俺の義妹だ。



「自分を想ってくれている人がいると、嬉しいものでしょう?私もうれしかったのですよ。ルルーシュが来てくれて。・・・ルルーシュが、変わっていないと分かって」

「ユフィ、その・・・」

「ごめん、と、すまないは聞き飽きました。それに、罪はもう償ったはずでしょう?ルルーシュはちゃんと、やさしい世界を創ってくれました」

「・・・・・・ありがとう。やっぱりユフィは優しいな。すごく、とても」

「優しいのはルルーシュの方ですよ」

「いや、優しいよ。君は」



ユフィは、優しい。
俺なんかよりもずっと、だ。

自分を殺した相手を前にしても、怒りの感情の欠片も見せなかった。
本来ならば俺は、彼女に憎まれるべき存在であるのというに。


彼女は誰よりも優しい。

俺なんかよりも、ずっと。


ずっと。




「あ、スザクが―――」



ユフィの言葉につられてスザクを見やれば、空を見上げ、俺に語りかけてでもいるかのように、一人、言葉を紡いでいた。






枢木スザクは、死んだ。


そう、その通りだ。スザクが俺を殺したように、俺がスザクを殺した。

俺が与えた。死にながらにして生きるという罰を。
そう、かつて俺がそうだったように、スザクもそうして生きていかなければならないのだ。


そんな罰を、俺はスザクへと与えたんだ。





・・・・・・なのに。

それなのに、スザクは俺が今笑えているか、そして幸せであるかと問いかけてきた。
死にたがりだったスザクに、生きるという罰を与えた俺に。



優しすぎるんだ、スザクも、ユフィも。









「ふふ、ルルーシュは、なんだか涙もろくなりましたね」

「・・・そうかな」

「何か、伝えたいことがあるのではないですか?」

「え?」

「声に・・・出してみてください。きっとスザクに伝わります。私の願いだって、ちゃんと届いたんですから」



満面の笑顔で、ユフィは言った。


ユフィの、願い・・・



「優しい、世界に?」

「ええ。ですから、伝わるんです。想いは、必ず」





その言葉を聞き、俺はスザクの方を向き、想いを、言葉にした。





「・・・・・・スザク、俺は今でも、本当にこれで良かったのかといつも後悔しているんだ。お前にとってもっと幸せな道も選べたんじゃないか、って。

俺は酷いやつだよな。生きるということが、お前に対する一番の罰だって、知ってて選んだんだから。

ごめん、本当に。・・・・・・でも、俺を信じてくれて、ありがとう。最後まで着いてきてくれて、本当に感謝している。

お前にだけ全て押し付けてすまない。でも、スザクにしか出来ないことなんだ。
俺とお前で出来なかったことなんてないんだ。だから、お前しかいなかった。


ナナリーや、みんなを。・・・・・・世界を、頼む。


見守るくらいならいくらでもするさ。でも、あんまり早くこっちに来てはくれるなよ。お前だけは、何があっても生き続けてくれ。じゃないと、ユフィにも顔向けできなくなるしな」




そういってユフィをちらりと振り返ると、いたずらっぽい笑みを返された。




「俺は、大丈夫。今はちゃんと笑えるようになったし、・・・ああ、幸せだ。

お前だけを残して、全てを託したこと、本当にすまないと思ってる。だけど、俺がつないだ命、どうか大切にしてくれ。

そして、できればお前にも笑って、幸せになって欲しい。
人並みの幸せも捧げて、なんて言ったが、俺だって、お前に幸せになって欲しい。


それから、わざわざ祝ってくれて、ありがとう」



気が付けばなぜか自然と、笑みがこぼれていた。








「やっぱり、私は笑っているルルーシュが一番好きです」

「・・・そうか」

「はい。・・・あ、パーティの準備が出来たようですよ。主役が来ないと、いつまで経っても始められませんわ。さあ、行きましょう」

「ああ。そうだな」



ユフィは皆が待つ方へと歩いていった。
俺もそのあとに続こうとしたが、ふと、あることを思い出し立ち止まった。








「ああ、ひとつ、言い忘れた。





―――俺も、お前に出会えて良かったよ、スザク」




そのとき、スザクの周りに、ふわりと風が吹いた気がした。







俺の想いが、どうか届きますように―――